抄録
【目的】Wistar Hannover(WI)ラットはSDラットに比して小型であり,生存率が高く自然発生腫瘍が比較的少ないことから,安全性試験への利用が注目されている。今回,IGSラット研究会の活動の一環として,WIラットの一般毒性試験に関する背景データを収集するとともに,SDラットとの比較を行った。
【方法】雌雄WIラット(Crl:WI (Han))を4週間(W4)あるいは13週間(W13),飼育(無処置),注射用水を強制経口投与,あるいは生理食塩液を静脈内投与し,一般毒性試験で実施される各種評価を行った。比較対照として,雌雄SDラット(Crl:CD (SD))を同様に飼育(無処置)し評価した。動物数は,1群あたり雌雄各10例とした。
【結果及びまとめ】WIラット無処置群ではSDラット無処置群に対して,体重及び摂餌量の低値,角膜混濁の頻度の増加及び角膜の鉱質沈着,白血球数の低値,γグロブリンの低値,胸腺重量の高値,並びにハーダー氏腺の腺房細胞単細胞壊死の出現頻度の増加,腎臓の好塩基性尿細管,鉱質沈着及び単核細胞浸潤の出現頻度,及び肝臓の小肉芽腫の病変程度の低下が認められた。また,大差ではなかったが,カリウム排泄量の低値,尿蛋白の陰性例及びケトン体陰性例の増加,網赤血球数の高値,血小板数の低値,AST,ALT及びALPの低値,並びに尿素窒素の高値が認められた。
WIラット及びSDラットとも,W4に比べてW13では,γグロブリンの高値,並びにカリウム排泄量,ALP,無機リン及び胸腺重量の低値が認められ,これらは加齢性の変化であると考えられた。また,雄に比べて雌では,PT,APTT,フィブリノゲン,ALP及び中性脂肪の低値,並びに下垂体重量及び副腎重量の高値が認められた。これらの結果は,WIラットを用いた一般毒性試験結果の解釈に有用な情報であると考えられた。