抄録
【目的】染毛剤成分の中でフェニレンジアミン(PD)類の精子機能を含めた雄性生殖器系への影響については,昨年の本学会で報告した。今回,トルエンジアミン(TDA)類,アミノフェノール(AP)類およびアミノクレゾール(AC)類の雄性生殖器系への影響を調べたので報告する。
【方法】薬物: TDA (2,5-, 2,6-, 3,4-),AP (2-, 3-, 4-),AC (2-A-3-C: 2-amino-3-cresol,2-A-4-C,4-A-3-C,5-A-2-C,6-A-3-C),投与量:予備実験で400mg/kg/dayから公比2で降下させて求めた最大耐量を各薬物の投与量とした。投与法:薬物はプロピレングリコールに溶解または懸濁し,11週齢の雄性 Crlj:CD-1マウスに5日間連続皮下投与した。動物は各群10匹用い,1,5週目で5匹ずつ剖検し,生殖器系の臓器重量計測後,左精巣上体尾部を用い、精子パラメータの計測(精子数・粒度分布:CDA-500,精子運動性:SQA-ⅡC)をした。さらに精子形態を位相差顕微鏡で観察し,その他の臓器はホルマリン固定後に病理組織学的検討を行った。
【結果・考察】死亡:本実験では2,6-TDA: 3/10,2-A-3-C: 1/10,2-A-4-C: 2/10みられた。体重:2,6-TDAの1週目で低下がみられた。臓器重量(相対):精巣重量は3-APの1週目,4-APの1,5週目で低下を示した。精巣上体には有意差はみられなかった。精嚢重量は4-APの5週目で増加がみられた。精子パラメータ:精子数・運動性は有意差を示さなかった。精子の形態観察や粒度分布曲線では,4-AP,2-A-4-Cの5週目の一部の例で軽度の変化を認めた。組織学的観察:精巣・精巣上体の変化は3-APの5週目,4-APの1,5週目,2-A-4-Cの5週目の一部の例にみられた。精巣では精上皮の変性・壊死が,精巣上体では,管腔内精子数減少,細胞残渣貯留が認められた。以上より,染毛剤成分3-AP (100mg/kg), 4-AP (400mg/kg), 2-A-4-C (200mg/kg)で精巣・精子障害性がみられ,その作用は比較的軽度であった。