日本毒性学会学術年会
第39回日本毒性学会学術年会
セッションID: S1-3
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エピジェネティクスから捉えた毒作用発現
ストレス応答性遺伝子発現におけるS-アデノシルメチオニン合成酵素の核内機能
*五十嵐 和彦解良 洋平加藤 恭丈
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抄録

DNAやヒストンなどのメチル化反応は、他の多くの生体内メチル化反応と同様にS-adenosyl-L-methoinine (SAM)をメチル基供与体とする。SAMはメチオニンとATPを基質としてmethionine adenosyltransferase (MAT) により合成される。我々は、様々なストレスに応答して誘導されるヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)の転写制御機構から、MATのアイソザイムMATIIが転写因子MafKによりHO-1遺伝子制御領域へ動員され、周辺ヒストンのメチル化を促進することを見いだした。また、MATIIはprostaglandin-endoperoxide synthase 2 (Ptgs2/Cox2)遺伝子の抑制に関わることも見いだした。Cox2もHO-1と同様に様々なストレスや炎症によって強く誘導される。このことから、局所的MATII動員は、ストレス応答におけるエピゲノム制御の基本原理の一つと予想される。興味深いことに、HO-1遺伝子の抑制はMATIIの酵素活性に依存し、また、MATII複合体にはヒストンメチル基転移酵素活性が含まれている。すなわち、クロマチン局所でSAM合成とヒストンメチル化反応が複合体形成により共役することが予想される。これにより、エネルギー的に効率の良いエピゲノムのメチル化が可能となるであろう。また、MATIIの核局在やクロマチン結合は核内SAM濃度を低く抑えることを可能とする。SAMは変異原性を有することから、生体はその毒性を回避する仕組みとしてこのような系を進化させてきた可能性もある。

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© 2012 日本毒性学会
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