日本毒性学会学術年会
第39回日本毒性学会学術年会
セッションID: S1-2
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エピジェネティクスから捉えた毒作用発現
発生期神経幹細胞の分化能獲得における酸素濃度の影響
武藤 哲司佐野坂 司伊藤 慧*中島 欽一
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抄録

神経幹細胞は、ニューロン及びグリア細胞(アストロサイト及びオリゴデンドロサイト)への多分化能をもった細胞と定義されるが、始めから多分化能を持っている訳ではない。胎性中期にまずニューロンへの、その後胎生後期にグリア細胞への分化能を獲得して、最終的に多分化能を持った神経幹細胞として成熟する。我々は以前に、神経幹細胞のアストロサイト分化能獲得には、先に分化・産生されたニューロンが残存神経幹細胞のNotchシグナルを活性化し、それによって誘導されるアストロサイト特異的遺伝子の脱メチル化が重要であることを明らかにした。ところで、脳を含めた胎仔組織は低酸素状態に維持されていることが分かっている。今回我々は、低酸素状態が神経幹細胞のアストロサイト分化能獲得に重要であることを明らかにしたので報告したい。胎生中期神経幹細胞は通常培養条件下ではアストロサイト分化誘導サイトカインで刺激されても、アストロサイトへは分化しない。しかし低酸素条件下で培養した場合、早期なアストロサイト分化が観察された。この際、hypoxia inducible factor 1a(HIF1a)の安定性が増加し、Notch細胞内領域と複合体を形成することで、アストロサイト特異的遺伝子の脱メチル化に重要なNotchシグナルを増強させていることが分かった。また、妊娠マウスを高酸素条件下で飼育し胎仔脳内の酸素濃度を上昇させると、アストロサイト分化が遅延することも明らかになった。これらの結果は、未熟児などが呼吸補助のために高酸素チャンバーで保育されることと考え合わせると、酸素濃度変化によりニューロン・アストロサイト分化バランスが崩れ、成長後に精神神経疾患などを誘発する可能性を示唆しており、さらなる検討が必要であると思われる。

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© 2012 日本毒性学会
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