日本毒性学会学術年会
第39回日本毒性学会学術年会
セッションID: S15-2
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放射線被曝と毒性学における課題・・福島原発問題を契機として
医療・臨床研究における放射線被ばく
*井上 登美夫
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抄録
放射線ひばくによる人体への影響は、確定的影響と確率的影響に分類されている。一定のひばく線量を超えると線量の大きさと障害の程度が相関するタイプの影響は確定的影響と分類され、被ばく線量にしきい値はなく、影響が起こる確率と被ばく線量が直線的に相関する影響(LNTモデル)は確率的影響と分類されている。放射線被ばく後、10年近くたって発症する発がんがこれに該当する。これらの放射線被ばくによる負の影響があるにも関わらず、医療の現場では、日常的に放射線被ばくを伴う検査が行われ、その検査件数はとどまることなく増加している。現在ICRPの放射線防護の考え方として、被ばくを受ける社会的状況によって、①公衆の被ばく、②職業被ばく、③医療(患者)被ばくの3つのカテゴリーに分けており、公衆のひばくと職業ひばくについては対象となる方々に対する放射線による影響を防ぐ目的で、遵守されるべき被ばく線量が法的なレベルで定められている。一方で、医療被ばくに関しては放射線を受ける患者の利益と不利益(リスク)のバランスを判断する上で、一律に線量を規定できないため上限は設けられていない。放射線の被ばくを受けて診療することの妥当性は、ベネフィットがリスクを明らかに上回るという患者を診療する医師の判断にゆだねられている。防護上の観点からは、公衆ひばく、職業ひばく、医療ひばくはおのおの独立したものであり、積算しないことになっている。しかし、これは防護上の施策であり、個人にとっては、どの被ばくも同じ被ばくである。近年、陽電子放出核種を用いるPET検査を薬物動態の開発支援ツールとして利用する上で、患者ではない健常人の生物研究志願者に対する被ばくをどのように整理して考えるべきかが話題となり、日本核医学会の防護委員会は昨年11月に「生物医学研究志願者の放射線防護に関する提言」を公表し、志願者参加条件などになどの考え方を示している。
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© 2012 日本毒性学会
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