抄録
医薬品開発や市販後において、医薬品の有効性および安全性の指標となるバイオマーカーの利用が進んでいる。我々は、安全性の確保による医薬品適正使用の推進を目指して、副作用を事前にまたは早期に予測するバイオマーカーの探索を行っている。特に市販後に問題となる重篤副作用に関しては、厚生労働省、医薬品医療機器総合機構、日本製薬団体連合会の協力の下、全国の病院より、重症薬疹であるスティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)・中毒性表皮壊死症(TEN)、横紋筋融解症、間質性肺障害の患者DNA試料を、さらに拠点病院より薬物性肝障害の試料を、各々収集し、ゲノム網羅的遺伝子多型解析およびヒト白血球抗原HLAを含む候補遺伝子多型解析により、ゲノムバイオマーカーの探索を行っている。SJS/TENについては、日本人において、アロプリノール誘因性の症例に関しHLA-B*5801との関連を、カルバマゼピン誘因性の症例に関しHLA-B*1511との関連を、それぞれ見出した。このようなHLAタイプとの関連は、医薬品特異的、民族特異的であることが明らかになりつつある。一方で、世界的にみるとゲノムバイオマーカーが同定されない医薬品と副作用の組み合わせも多いとされる。オミックスはゲノムを最上流として、エピゲノム、トランスクリプトーム、プロテオームと下り、メタボロームが最下流として表現型の発現を担っている。そこで最近、メタボローム、特に生理活性物質が多い脂質のメタボローム測定系を立ち上げた。現在では、プロスタグランジン類等の酸化脂肪酸を始め、リン脂質、スフィンゴ脂質、トリグリセリド、カルジオリピン等の脂質分子種を測定しうる系を確立し、疾患モデル動物等に適用している。今後は、副作用モデル動物の臓器・血液、および副作用発現患者の血液等を試料として解析を行い、副作用バイオマーカーの同定を行う予定である。