日本毒性学会学術年会
第39回日本毒性学会学術年会
セッションID: S4-1
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再生医療とその評価
モノつくり技術を利用した再生医療-再生治療と再生研究-
*田畑 泰彦
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抄録

再生治療とは、細胞の増殖・分化能力(細胞力)に基づく自然治癒力を活用することによって、生体組織の再生修復を行う治療である。この再生治療(一般には再生医療と呼ばれる)の実現には、細胞移植と組織工学のアプローチがある。一般に、体内では、細胞が単独で生存、機能していることはなく、細胞はその周辺環境と相互作用しながら、その生物機能を発揮している。そこで、細胞力を活用した治療を考えるのであれば、細胞自身の機能とともに、細胞力を促す細胞周辺環境も重要である。これらが揃って初めて、細胞力を介した再生治療効果が期待できる。
 細胞の周辺環境を作り与える技術・方法論が組織工学である。細胞環境は細胞外マトリクス(細胞の家)とタンパク質(細胞の食べ物)からなる。例えば、バイオマテリアル(体内あるいは生体成分と触れて用いるマテリアル)を利用して、細胞の家や細胞の食べ物を細胞に運ぶドラッグデリバリーシステム(DDS)を作り、細胞力を高め再生治療を実現する。すでに、生体吸収性ハイドロゲルを用いて、体内で不安定なタンパク質を細胞に与え、細胞力を高めることが可能となっている。この組織工学技術により血管や皮膚、骨などの組織の再生治療が実現している。また、血管再生治療は移植細胞の生着率と治療効果を向上させている。
 再生治療の発展には、それを科学的に支える細胞研究や創薬研究(細胞力を高める細胞の食べ物の研究開発)の進歩が不可欠である。例えば、細胞周辺環境に近い性質をもつ培養基材は、幹細胞の増殖、分化機構の解明と制御の研究を加速し、移植細胞の調製にも必要である。また、細胞毒性の低い遺伝子導入バイオマテリアルによる細胞機能の改変、増強、制御技術は、細胞研究のみならず、創薬研究にも大きく貢献する。
 本講演では、再生治療と再生研究(細胞研究と創薬研究)とからなる再生医療領域をオーバービューするとともに、再生医療の今後の発展にはモノつくり技術が必要不可欠であることを強調したい。

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© 2012 日本毒性学会
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