抄録
【緒言】
金属の中には,必須微量元素として生体の存在に必要なものがある.しかし,それらが過剰に蓄積した場合には様々な毒性を生じる.この「金属の蓄積症」は大きく2種類に分類される.1つは過剰摂取・暴露による中毒である.公害病や職業病などに多くみられる.カドミウム中毒である「イタイイタイ病」,メチル水銀中毒の「水俣病」あるいは鉛管工がかかる「鉛中毒」などである.その他に,水銀の蓄積が自閉症の原因ではないかと一時話題になったことも比較的記憶に新しい.もう1つは,金属の代謝あるいは排泄に障害があり,そのためある物質が体内に蓄積する疾患である.本稿において筆者は,金属代謝の異常症として,銅が蓄積するWilson病と鉄が蓄積する無セルロプラスミン血症を中心に,生体に対する金属毒性について解説する.
【Wilson病】
常染色体劣性遺伝形式をとる先天性銅代謝異常症の代表的疾患である.肝細胞内での銅代謝障害が病態の中心である.これにより,肝臓中に銅が蓄積し肝障害を生じる.また,血液中に過剰に流出した銅は,体内の種々の臓器に蓄積し,それらの臓器障害を引き起こす.肝硬変,錐体外路症状およびKayser-Fleischer角膜輪が三主徴である.その他,溶血,腎障害,精神障害などが起こりうる.治療は,銅キレート薬の内服と低銅食によって行う.
【無セルロプラスミン血症】
セルロプラスミン蛋白の障害により,中枢神経,肝臓などの鉄が蓄積する常染色体劣性遺伝性疾患である.セルロプラスミンのフェロオキダーゼ活性が消失しているため,二価鉄から三価鉄への酸化が障害され鉄が過剰蓄積する.40-50歳以降に,構音障害,ジストニア,痴呆などの多彩な神経・精神症状および網膜変性などにて発症する.血清鉄の低下,貧血もみられる.本症に対する根本的な治療法は確立されていないが,鉄のキレート薬にて症状の改善を認めたとの報告がある.