急性参照用量は、農薬等の短期間の摂取による健康影響評価の指標として設定される。胎児および出生児の形態あるいは機能の発達分化の多くは、厳密な時間的スケージュールの下で物理的、生化学的あるいは内分泌学的制御を受けて進行していることから、生殖発生毒性試験で認められた影響は、それが反復投与試験であっても急性影響の可能性を考慮する必要がある。実際、FAO/WHO Joint Meetings on Pesticide and Residues (JMPR)でも、比較的多くの剤で生殖発生毒性試験の成績を根拠に急性参照用量が設定されている。
生殖発生毒性試験で認められる毒性影響は、1)親動物に対する影響、2)母動物に対する毒性を介した胚・胎児/出生児への影響、3)胚・胎児/出生児に対する直接影響、に大別できる。本シンポジウムでは、妊娠動物に農薬を単回投与した際の急性影響を例示するとともに、これら3つの観点から急性参照用量の設定についてについて述べたい。
生殖発生毒性試験の成績から急性参照用量の設定を考慮する際には、胚・胎児/出生児の形態あるいは機能の発達分化に対する影響を考察するとともにライフステージによって変化する生理状態と作用機序との関係を考慮して進めることがより適切な設定へのひとつの道筋になるものと考えられる。