抄録
【目的】我々は,NRK-52E細胞(ラット由来の腎近位尿細管上皮細胞)を用いて,カドミウム(Cd)がユビキチンプロテアソームシステムのE2転移酵素であるUbe2dファミリーの遺伝子発現抑制を介して,p53の過剰蓄積を引き起こし,その結果,アポトーシスを誘導することを見いだした。今回は,ヒトの腎近位尿細管上皮細胞(HK-2細胞)を用いて,カドミウムによるp53タンパク質の細胞内蓄積におけるUBE2Dファミリーの関与,並びにカドミウムのアポトーシス誘導におけるp53の関与について検討した。【方法】HK-2細胞を40 µM Cdで6時間まで処理し,UBE2DファミリーのmRNAレベルをリアルタイムRT-PCR法により,p53タンパク質レベルおよびリン酸化度合いをウェスタンブロット法により,それぞれ測定した。UBE2Dファミリーの発現をsiRNAで抑制させた後,細胞内のp53タンパク質レベルを調べた。また,siRNAでp53を発現抑制させた細胞をCd(40 µM)で18時間処理した後に,TUNEL染色でアポトーシスを観察した。【結果・考察】HK-2細胞において,CdはUBE2D2およびUBE2D4のmRNAレベルを有意に減少させた。さらに,Cdによって細胞内p53のタンパク質レベル並びに核内リン酸化p53がそれぞれ顕著に増加した。また,UBE2D2およびUBE2D4をノックダウンしたところ,細胞内のp53タンパク質レベルの上昇が認められた。しかも,CdはHK-2細胞でのアポトーシスを誘導したが,p53をノックダウンさせることによってCdのアポトーシス誘導が著しく抑制された。以上の結果より,ヒトの腎近位尿細管上皮細胞におけるカドミウムのアポトーシス誘導にUBE2Dファミリー遺伝子の発現抑制を介したp53の過剰蓄積が深く関与することが明らかとなった。