抄録
【目的】我々は,これまでにラットの腎近位尿細管上皮細胞(NRK-52細胞)において,カドミウム(Cd)がUbe2dファミリー(ユビキチン転移酵素)の遺伝子発現を抑制することを見いだした。さらに,CdによるUbe2dファミリーの遺伝子発現抑制がアポトーシス誘導因子p53を過剰蓄積させて細胞障害を引き起こすことも明らかにしている。今回は,CdのUbe2dファミリー遺伝子の発現抑制およびp53の過剰蓄積における腎特異性を様々な培養細胞並びにマウスを用いて検討した。【方法】ラットの小腸上皮細胞(IEC-6),ヒト脳微小血管細胞(HBMEC)並びにヒトアストロサイト(HBAST)の培養細胞をCdで処理した。また,C57BL/6JマウスにCd (300 ppm)含有餌を 6ヶ月間与え,腎臓および肝臓を摘出した。遺伝子発現はリアルタイムRT-PCR法により,タンパク質レベルはウェスタンブロット法またはELISA法により測定した。 【結果および考察】IEC-6細胞では,CdによってUbe2d1, Ube2d2, Ube2d4のmRNAレベルとp53のタンパク質レベルがともに減少した。HBMEC細胞では,CdによってUBE2Dファミリーの遺伝子発現は抑制されなかったが,p53タンパク質レベルは増加した。また,HBAST細胞では,CdによってUBE2D3のみmRNAレベルが上昇した。一方,Cd曝露マウスの腎臓ではUbe2dファミリー遺伝子の発現抑制およびp53タンパク質レベルの増加が認められたが,肝臓ではUbe2dファミリーのmRNAレベルやp53タンパク質レベルは対照群と同様だった。以上の結果より,CdのUbe2dファミリー遺伝子の発現抑制を介したp53タンパク質の増加は腎臓に特異的な作用である可能性が考えられる。