日本毒性学会学術年会
第40回日本毒性学会学術年会
セッションID: S4-4
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シンポジウム 4 ナノマテリアルの評価手法開発における今後の課題
ナノ材料(CNT)の物性と発がん性
*豊國 伸哉
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抄録
1981年以降,日本人死因の第1位はがんである。喫煙や特定の感染症が発がんリスクとして同定された。しかし,産業・経済を重視するあまり,リスク評価が十分になされず,ナノマテリアルが社会に多量に持ち込まれ,がんの原因となったことも忘れてはならない。それが繊維状鉱物のアスベストであり白石綿・青石綿・茶石綿が使用された。日本では2006年に禁止となったが,アジアの諸国やロシアなどでは今も使用されている。日本の中皮腫発生ピークは2025年で今後40年間に10万人以上の方が中皮腫で死亡すると試算されている。ラットを使用して上記3種の石綿で,腹腔内10mg投与により中皮腫発がん実験を行った。2年の経過でほぼ全動物に中皮腫が発生した。石綿投与に伴い,同部の中皮細胞や貪食細胞に著明な鉄沈着を認め,Fenton反応促進性のニトリロ三酢酸の追加投与でどの石綿でも中皮腫発生が早くなった。93%の腫瘍でCdkn2A/2Bのホモ欠損を認めた。アスベスト発がんでは局所の過剰鉄病態が重要なことが示唆された。このような背景のもと,すでに中皮腫の危険性の報告のあった多層カーボンナノチューブ(CNT)の評価を行った。CNTは軽量・高強度で熱伝導性が高く導体・半導体になることからすでに電池・液晶パネルのマテリアルとして使用されているが,形状は石綿に酷似している。直径が15/50/115/150nmのCNTを使用し中皮細胞毒性実験と上記と同様のラットを使用した発がん実験を行った。中皮細胞への毒性と発がん性はほぼ一致し,50nmの発がん性が最も高かった。Cdkn2A/2Bのホモ欠損をほぼ全例で認めた。このことは,剛性が高い50nm直径のCNTは特に注意して扱うべきことを示唆している。一方,石綿はendocytosisで中皮細胞に取り込まれるが,CNTは突き刺さり入ることも明らかになった。ヒトで体腔に繊維が到達することはそう簡単ではないと考えられるが,ますます長寿化が進む現在,十分なリスク評価が必要と考えられる。 
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© 2013 日本毒性学会
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