抄録
【目的・背景】偽アレルギー反応とは,IgEを介在することなく直接肥満細胞が活性化され,ヒスタミン,トリプターゼ,各種サイトカインなどが脱顆粒により放出されることによって引き起こされるアナフィラキシー様反応である。新薬開発においては,ヒトにおける偽アレルギー反応誘発性を予測するための適切な試験系の開発が求められているのが現状である。そこで我々は,CD34+造血幹細胞由来の肥満細胞のヒスタミン遊離を脱顆粒の指標とすることで,薬物の偽アレルギー反応誘発性の予測がどの程度可能であるか検討した。【方法】ヒト骨髄から単離したCD34+造血幹細胞に各種サイトカインを添加して約68日間培養し,肥満細胞(FcεR1+/CD45+/CD117+)に分化させた。溶媒(生理食塩液),ヒスタミン遊離作用のない陰性対照(メトホルミン,アセトアミノフェン),ヒスタミン遊離作用が知られている陽性対照(サブスタンスP,コンパウンド48/40),またはヒトで偽アレルギー反応を誘発することが知られている化合物(ツボクラリン,モルヒネなど)を肥満細胞(5×104細胞)とともに30分,60分または24時間インキュベートした後,ELISAキットを用いて遠心上清中のヒスタミン量を測定した。【結果】陰性対照ではヒスタミン遊離はほとんどみられず,溶媒と同等であった。一方,ヒスタミン量には骨髄提供者による変動がみられたものの,偽アレルギー反応誘発既知化合物ではヒスタミン量増加が陽性対照と同程度に認められた。IgE添加の有無はヒスタミン量に影響を及ぼさず,また,30分,60分または24時間インキュベートによるヒスタミン量の有意な変化はみられなかった。【結論】以上の結果より,ヒトCD34+造血幹細胞由来の肥満細胞は,薬物の偽アレルギー反応誘発性の予測に有用であることが示唆された。