抄録
農薬等環境化学物質の複合暴露による毒性影響は,社会的関心が高いものの,実験や評価上の困難性などの理由から毒性情報の蓄積が不足している。しかし,食品中に含まれる複合化学物質の累積暴露影響は不明な点が多く,研究課題となっている。本研究では,免疫毒性作用を有する化学物質を対象に,経口的に複合暴露された場合の獲得免疫能抑制に及ぼす影響を調査した。実験には7週齢の雌性Balb/cマウスを用い,事前の調査で免疫抑制能を有する事が証明されている有機塩素系化合物メトキシクロル(100 mg/kg),有機リン系化合物パラチオン(1.0 mg/kg)および殺虫剤共力剤ピペロニルブトキシド(100 mg/kg)を各2剤の組み合わせで5日間経口投与した。これら化学物質を複合投与された動物に,羊赤血球(SRBC)特異的IgM産生能を調査する目的で,化学物質投与2日目(解剖の4日前)にSRBC(6×107個)を尾静脈内に投与し,免疫を行った。化学物質最終投与翌日にペントバルビタール麻酔下で採血を行い,安楽殺後,脾臓を摘出した。血清および脾臓細胞中のSRBC特異的IgM抗体産生能測定をELISAおよびPlaque forming cell assay(PFC法)にて,脾臓中のT(ヘルパーおよび細胞傷害性)およびB細胞数(胚中心陽性)をフローサイトメーターにて解析した。解析の結果,メトキシクロルとパラチオン,ピペロニルブトキシドとパラチオンの複合投与により,血清および脾臓中のSRBC特異的IgM産生能が単剤投与と比較して相乗的に抑制された。また,メトキシクロルとパラチオンの組み合わせではT細胞数が,ピペロニルブトキシドとパラチオンの組み合わせではB細胞数が単剤投与と比較して相乗的に減少しており,複合暴露の組み合わせによって抗体産生能抑制の作用点が異なる事が示唆された。