抄録
【目的】アシルグルクロニド (AG) はその反応性の高さから細胞毒性への関与が示唆されているが,実際にAGによる細胞毒性を直接証明した報告はほとんどない。本研究ではAGを生成する薬物としてdiclofenac (DCF),ibuprofen (Ibu),naproxen (Nap),probenecid (Pro) およびtolmetin (Tol) を用いて,AGにより生じる細胞毒性を,炎症性因子を指標として評価し,その機序を解明することを目的とした。
【方法】ヒト末梢血単核球に各親薬物およびそのAG代謝物を100 μM処置し,炎症性因子のmRNA発現変動をreal-time RT-PCRで測定した。CD3,CD14およびCD19陽性細胞の生存率をフローサイトメトリーにより測定した。DCF-AGによるMAPK (p38,JNKおよびERK) のリン酸化をウエスタンブロッティングにより解析し,各MAPK阻害剤を用いて炎症性因子の発現および細胞障害性に対するMAPK経路の関与を解析した。
【結果および考察】DCF-AG,Pro-AGおよびTol-AG処置群において,各親薬物と比較し,炎症性因子の mRNAの発現増加が認められた。上記AGにおいてCD3陽性細胞およびCD19陽性細胞に対する影響は認められなかったが,CD14陽性細胞特異的に生存率の低下が認められた。Ibu-AGとNap-AGにおいては,炎症性因子の発現変動およびCD14陽性細胞の生存率の低下は認められなかった。DCF-AG,Pro-AGおよびTol-AGのうち,炎症性因子およびCD14陽性細胞に最も影響の認められたDCF-AGに着目した。DCF-AGによる細胞毒性の機序を解明するためにMAPK経路を解析した結果,DCF-AGによるp38およびJNKの活性化が認められた。各MAPK阻害剤を処置したところ,p38阻害剤であるSB203580との併用処置により,DCF-AGによる炎症性因子の発現増加およびCD14陽性細胞に対する細胞障害は認められなくなった。以上より,AGは炎症性因子を誘導およびCD14陽性細胞特異的に細胞障害性を示し,これらはp38 MAPK経路の活性化を介するものであることを明らかにした。