抄録
急性腎障害(AKI)の指標として血清中の尿素窒素(BUN)やクレアチニン(Crea)が従来から測定されているが,これら従来のバイオマーカー(古典BM)が異常値を示すのは腎障害の進行後であり,早期に腎毒性を検出できない。近年ではラットを用いた検討結果を基に,安全性予測試験コンソーシアム(Predictive Safety Testing Consortium: PSTC)から,腎障害のモニタリングには尿中の総タンパク,β2-マイクログロブリン,シスタチンC,Kim-1,アルブミン,クラスタリン,TFF3が古典BMよりも感度,特異性が高い新規BMとして提案されており,薬剤誘発性腎障害のモニター項目として注目されている.一方,イヌにおいてはこれら新規BMを測定できる試薬が販売されていないこともあり,その有用性の検討が十分に行われていない。しかしながら,新規BMによる薬剤誘発性腎障害の評価は,特に非げっ歯類においてのみ腎障害が生じてしまう場合などに,毒性の早期検出や非浸襲性かつ経時的サンプル採取が可能な点などからその有用性が期待される.今回我々は,近位尿細管細胞に障害を起こすことで知られるシスプラチンを静脈内投与することによって血清中BUN,Crea等の古典BMの濃度増加,N-アセチルグルコサミニダーゼ,LD,γ-GTP等の尿中酵素の増加が認められ,病理組織学的検査においても腎尿細管の単細胞壊死および再生像や硝子円柱などの組織変化が認められるイヌ腎障害モデルを作出した.本発表では,これら従来のモニター項目に加え,新規腎障害BMの有用性について検討を行った結果を紹介する.