日本毒性学会学術年会
第41回日本毒性学会学術年会
セッションID: O-13
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一般演題 口演
放射線障害の未分化造血幹・前駆細胞に限局した遷延性変化とその加齢影響:遺伝子発現プロファイル
*平林 容子壷井 功五十嵐 勝秀菅野 純楠 洋一郎井上 達
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抄録
マウスに2Gyのガンマ線照射をすることによって惹き起こされる末梢血細胞数の減少は、6週間程度以内の早期に回復する。一方、より未分化な造血幹・前駆細胞においては、回復は不完全なまま推移し、照射による効果が遷延し長期にわたって遺残することが見出された。即ち、6週齢のマウスに2Gyのガンマ線を単回全身照射すると、分化型の血球数は照射直後の減少から早期に回復するのに対して、造血幹・前駆細胞分画ではその分化階層の低い分画ほど回復の遅延が見られ、より未分化な造血幹細胞(LKS)分画では、照射18ヶ月後でも非照射対照群の約50%の回復に留まった。更に、照射4週後の骨髄細胞における網羅的遺伝子発現解析で注目された細胞増殖やアポトーシスの関連遺伝子に対して定量PCR法で解析したところ、照射4週後の骨髄細胞ではこれまでの結果がよく再現され、ATM/CHEK2/Trp53 pathwayの活性化やAKT/PI3K pathwayの抑制に符合する一連の遺伝子の発現変動が見られた。同時にLKS分画でも同様の変化が観察され、骨髄細胞一般でもLKS分画でもアポトーシスの進行が示唆された。尚、照射19.5ヶ月後では、このうちCcnd1Fyn及びPiK3r1の過剰発現が、LKS分画に限局して観察されている。これは、造血幹・前駆細胞分画での数的な回復不全に伴う、細胞動態の亢進に起因する結果と考えられる。一方、非照射の21ヶ月齢のマウスにおいても、2ヶ月齢のマウスと比べると、LKS分画に限局したCcnd1及びPiK3r1の発現亢進が認められた。加えて、LKS分画の、加齢に伴う数の増加や細胞内酸化的ストレスの亢進も観察されており、これらの加齢に伴う変化は生涯時間をパラメターとした生体異物応答とも考えられる。更に、これらの遺伝子の発現レベルは、若齢期における単回照射によって、非照射対照群よりも更に増加することが見出された。以上の結果は照射による造血幹・前駆細胞の回復の遷延が、加齢変化を促進することを示唆するものとして興味深い。
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© 2014 日本毒性学会
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