抄録
「子供は小さな大人ではない」と言われるように、乳幼児は成体と比較して、化学物質に対する感受性が高いことが知られており、慎重な安全性情報の収集が必要となっている。本観点から我々は、100 nm以下の素材であるナノマテリアルに関して、乳幼児などの脆弱な個体に着目した安全性評価研究を推進している。我々はこれまでに、10 nmのナノ銀(nAg10)を授乳期の母マウスが経口摂取すると、母乳中に移行することを明らかとしており、nAg10が母乳を介して乳幼仔へ移行する可能性が懸念される。以上の点から本研究では、母乳を介した乳幼児のナノマテリアル曝露に関する情報を収集する目的で、授乳期の母マウスにnAg10を経口投与し、母乳育仔された乳幼仔への移行性を評価した。本研究では、nAg10、および、イオンのコントロールとして銀イオン(Ag+)を用いた。出産日から21日間、nAg10、Ag+を0.5、0.1、0.02 mg/kgの用量で、母マウスに連日経口投与し、母乳を介して乳幼仔に曝露させた。経週的に、乳幼仔から採血し、誘導結合プラズマ質量分析装置により乳幼仔血中の銀濃度を測定した。その結果、nAg10、Ag+投与群のいずれも、母体への総投与量の約0.01 %の銀が乳幼仔血中で検出されたことから、母マウスが経口摂取したnAg10が、母乳を介して乳幼仔へ移行する可能性が示された。また、nAg10、Ag+投与群のいずれも、母体への総投与量に対する乳幼仔血中への移行率は、投与量依存的に減少していることが明らかとなった。現在、乳幼仔の曝露に関する情報の収集にとどまらず、母乳を介してnAg10に曝露した乳幼仔へのハザードを、一般毒性、発達神経毒性(本会の別演題にて発表)などの観点から評価しており、Sustainable Nanotechnologyに貢献できればと考えている。