抄録
ナノマテリアル(NM)は、組織浸透性や薬剤保持能に優れた革新的素材として医薬品等に広く用いられているものの、その微小サイズ故、これまでのサブミクロンサイズ以上の粒子とは異なるハザードを呈する可能性が懸念されている。しかし、粒子サイズや表面特性といった物性とハザードとの連関は未だ明確ではなく、NM特有のハザード同定に向けて、さらなる解析が必要不可欠となっている。そこで本検討では、粒子径10-100 nmの非晶質ナノシリカ、および100-1000 nmの従来サイズの非晶質シリカを用い、過剰量投与による急性毒性と粒子サイズの連関を精査することで、NM特有のハザード同定を試みた。まず、C3H/HeNマウスに各粒子径のシリカを尾静脈投与後、体温変化を解析した。その結果、粒子径50 nm~1000 nmのシリカ投与群においては、粒子径の減少に伴い、体温低下をより強く誘発する傾向が確認された。一方で、10、30 nmのナノシリカ投与群では、50 nmのナノシリカ投与群と比較して、逆に体温低下が減弱した。しかし、血小板数の減少や致死毒性は、粒子径の減少に伴って増大し、10 nmのナノシリカ投与群で最も顕著に観察された。今回解析した急性毒性の観点からナノシリカのハザードを考えると、50 nm以上の粒子径では、粒子径の減少に伴いハザードが増大すること、即ち、サイズの増減に強く影響を受ける可能性が示された。一方で、50 nm以下のナノシリカにおいては、一部のハザードは増大するものの、減弱するハザードも存在することが示された。今後、急性毒性との関与が疑われる補体や凝固因子との相互作用解析を含め、より詳細に解析する予定である。また、分子と同等サイズである10 nm以下のサブナノマテリアルについても、検討する必要があると考えている。本検討が、NM特有のハザード同定に向けた基盤情報になることを期待している。