抄録
食品中に残留する農薬は個々のレベルでは微量で安全性に問題はないが、類似の作用機序を有する複数の農薬に複合的に暴露された場合での影響が懸念されている。これまで我々は、雌ラットを用いて若齢、成熟および妊娠動物に対する、有機リン系農薬のパラチオンおよびメタミドホスの単剤あるいは複合暴露影響について検討し、若齢、成熟、妊娠動物の順に毒性が増強されることを示した。
本研究では、この複合暴露影響に対するLife Stageによる感受性変化に影響を与えている要因について情報を得ることを目的として、無処置の若齢期、成熟期および妊娠期(中期および後期)のWistar Hannover系雌ラットにおける、血清コリンエステラーゼ (ChE)活性、肝Paraoxonase1 (PON1)活性、血清コルチコステロン(COR)量、肝グルタチオン(GHT)活性をELISA法により測定した。その結果、ChE活性、酸化GTH活性およびCOR濃度は若齢期で低値を示し、成熟期、妊娠中期および後期で高値となった。一方、有機リン系農薬の代表的な代謝酵素であるPON1活性は妊娠後期,若齢期,妊娠中期,成熟期の順に高かった。
肝臓の解毒機能は成長に伴い活性化するため、若齢期と成熟期では薬物に対する感受性に差異が生じる。一般的には解毒機能の低い若齢期に毒性が強く表れると言われているが、若齢期および妊娠後期におけるPON1活性の低値は代謝されることによってChE活性阻害を示すパラチオンのような剤については毒性作用が軽減されることが示唆された。また、薬物代謝機能はホルモンやストレス負荷によって影響を受けるため、これらの要因が大きく変動する成長や妊娠によって農薬の暴露による毒性影響に違いが生じることが考えられ、適切な暴露影響の評価や安全確保対策の確立のために情報の蓄積が必要である。
(厚生労働省 食品の安心・安全確保推進研究事業)