抄録
【目的】ペルフルオロカルボン酸(PFCA)は完全フッ素化された直鎖アルキル基を有する脂肪酸であり、界面活性剤、乳化剤、撥水剤等に使用されている。PFCAは化学的に安定で環境中に残留するのに加え、ヒトにおける半減期が長いため、環境汚染及びヒトの健康への影響が懸念されている。ペルフルオロドデカン酸(PFDoA)は、使用量の多いペルフルオロオクタン酸(PFOA)の製造過程で副生成物として生成し、環境中からも検出されている。しかし、PFOAと比べるとPFDoAの動態や毒性に関する情報はいまだに少ない。そこで本研究では、ラットに対するPFDoA単回投与後の組織分布及び残留性を調べ、中枢移行による脳への影響を明らかにすることを試みた。【方法】8週齢Wistar ST雄性ラットに、コーン油に懸濁したPFDoA(50 mg/kg/2 mL)を経口より単回投与した。一定期間後に屠殺し、血清・臓器(脳・肝臓・腎臓)を採取した。血清及び組織よりPFDoAを抽出した後、アセチルメトキシクマリンで誘導体化し、HPLCにて定量を行った。また、PFDoA投与によるラットの脳機能・行動の変化を評価するため、open field試験、高架式十字迷路試験、強制水泳試験、新奇物体探索試験及び文脈的恐怖条件付け試験を行った。その際、vehicle、PFOA及びペルフルオロデカン酸(PFDA)投与群を比較対象とした。【結果・考察】PFDoAは各組織に長期にわたり残留し、特に脳からの消失が遅かった。新奇物体探索試験の結果、PFDoAを投与すると、投与直後に顕著な学習能力の低下が認められ、投与28日後においても学習能力の低下が継続して認められた。一方、PFOAおよびPFDA投与群では学習能力の低下は認められなかった。また、open field試験、高架式十字迷路試験、強制水泳試験及び文脈的恐怖条件付け試験では、PFDoA投与の影響は認められなかった。以上の結果より、ラット体内に取り込まれたPFDoAは脳へと移行し、残留することにより長期にわたって学習能力の低下を引き起こす可能性が示唆された。