抄録
【背景】エストロゲン物質の臨界期曝露により、性成熟後に性周期異常としてその影響が顕在化する遅発影響は(高橋ら,2011)、生殖毒性試験で検出が不可能であり、その発現機序も明らかになっていない。本研究では、近年性周期の制御中枢として注目され始めた視床下部前腹側脳室周囲核(AVPV)のキスペプチンニューロンと遅発影響の関連性を明らかにするため、以下の実験を行った。【方法】生後0日齢の雌性Donryuラットを用い、対照群にはSesami Oilを、投与群にはEthynyl Estradiol(EE)を単回皮下投与した。EEは非遅発影響用量である0.02µg/kg、遅発影響用量である0.2および20µg/kgの計3用量を用いた。正常性周期を示す10週齢時に人工的にLHサージを誘発し、サージ誘発日の11:00-19:00の各タイムポイントでLH濃度を測定し、AVPVにおけるkiss1mRNA発現を解析した。また、加齢に伴う性周期異常と比較するため、20週齢のMiddle age群にも同様の処置をした。【結果】LHサージピークはいずれの群でも16:00-17:00に認められ、EE0.02µg/kg投与群を除く群でサージ面積の低下傾向が見られた。また16:00にはEE投与群で用量依存的にLH濃度が低下し、さらにEE20µg/kgおよびMiddle age群でその低下が顕著であった。対照群のkiss1mRNAはLHサージとほぼ同時刻に発現のピークが認められ、LH濃度の低下が顕著であったEE20µg/kg投与群およびMiddle age群では、14:00にkiss1mRNAの有意な発現低下が、16:00に低下傾向が見られた。【結論】遅発影響の特徴である性周期異常の顕在化に先駆けて、キスペプチンニューロンの異常等の視床下部性周期制御中枢の変化が生じている可能性が示唆された。