抄録
[背景および目的]スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)や尋常性乾癬などは薬剤誘導性の皮膚疾患である。イブプロフェン(IBP)やマレイン酸エナラプリル(MAEP)はSJSを惹起することが報告されているが、詳細な発症メカニズムは解明されていない。そこで、本研究では薬剤誘導性の皮膚疾患の発症メカニズムを明らかにするため、IBPの代謝物であるIBP-アシルグルクロニド(IBPG)やMAEPが細胞の増殖や遺伝子の発現量に及ぼす影響について検討した。[方法]IBPGで処置したヒト皮膚角化(HaCaT)細胞の細胞生存率をMTTアッセイ法で解析し、IBPGによる細胞毒性を評価した。薬物の暴露により皮膚細胞内で発現量が変化する遺伝子を探索するために、IBPGで処置したHaCaT細胞とIBPG未処置のHaCaT細胞のRNAをマイクロアレイ法で網羅的に解析した。MAEP処置時の細胞毒性についても、MTTアッセイ法で評価した。MAEPで処置した細胞内の遺伝子の発現量の変化を評価するために、MAEPで処置したHaCaT細胞内の特定の遺伝子の発現量をリアルタイムPCR法で解析した。[結果および考察]IBPGで処置したHaCaT細胞では、細胞生存率の減少が認められた。IBPGで処置したHaCaT細胞では、IBPG未処置の場合と比べて、S100A7aを含む343種類のRNAの増加が認められた。S100タンパク質ファミリーはカルシウム結合性タンパク質であり、細胞内におけるシグナル伝達だけでなく、細胞外に分泌され機能することも報告されている。更に、MAEPで処置したHaCaT細胞においても、細胞生存率の減少が認められた。細胞周期に関わる遺伝子についてリアルタイムPCR法を実施した結果、MAEPで処置したHaCaT細胞においてもS100A7aの増加が認められた。また、MAEPで処置したHaCaT細胞ではS100A7c(Psoriasin)の誘導も認められた。従って、薬剤誘導性皮膚疾患の発症には、S100タンパク質ファミリーの誘導が関与する可能性が考えられた。