抄録
ヒト健康や生態へのリスクが懸念される化学物質を具体的に指定し、他の物質に代替することを促す規制が欧米において近年導入されたり、提案されたりしている。そのため、OECDにおいても有害物質代替を議論するグループが設立された。しかし、代替物質とのリスク比較が義務づけられることはないために、物質代替によって実際にリスクが低減しているかどうかは実はよくわかっていない。物質代替の効果を議論するには、リスクトレードオフ解析が必要である。しかし、既存有害性情報は報告されているエンドポイントが揃っていなかったり、暴露期間が異なっていたりと均一ではなく、リスクトレードオフ解析にそぐわないケースが多い。そこで本研究では、化学物質の有害性評価において重要な役割を果たしている反復投与毒性試験について、エンドポイント毎の暴露期間のデータギャップ補完を目的とした有害性換算係数の検討を行った。化学物質管理の観点から、28日間亜急性毒性試験データ、90日間亜慢性試験データが比較的多く、また、肝臓、腎臓、血液、体重影響が主要なエンドポイントである。よって、PRTR法(化学物質排出把握管理促進法)で製造量や有害性などの観点から重要とされる第一種指定化学物質であり、NITE((独)製品評価技術基盤機構)初期リスク評価書で扱われている約150物質の有害性情報のうち、ラットを用いた経口投与試験データを用いて、4つのエンドポイントごとに亜急性毒性試験でのNOEL (mg/kg/day) と亜慢性毒性試験でのNOEL (mg/kg/day) の比の解析を行った。また、暴露期間の比較はAssessment factorの文脈で議論されることが多く、既存研究ではエンドポイントには着目せず議論されているため、各エンドポイントのNOEL比の分布と、エンドポイントを区別しない場合のNOEL比の分布の違いについての議論も行う。