抄録
リン脂質症(Phospholipidosis: PLD)は、カチオン性と両親媒性を有する薬剤(Cationic-Amphiphilic-Drugs, CADs)により誘導され、リン脂質あるいはリン脂質との複合体が細胞内に蓄積し全身では高脂血症、網膜障害などを引き起こすことが知られている。PLDは物性値を用いたin silico 予測手法が報告されているが、これらの手法は親水性PLD誘発分子(Erythromycin 、Gentamycinなど)に対する予測能が十分ではなかった。そこで、これらの分子の検出を可能とする予測手法の開発を行った。既存の最塩基性酸解離定数及び水/オクタノール分配係数に加え、モル屈折率を新たに記述因子とする予測手法を考案し、データセット(陽性:19、陰性:19)に適用したところ、感度=94.7%、特異性=84.2%及び一致率=89.5%と既報と同等以上の予測能を示した。さらにこの予測手法は、既報では検出できなかった親水性PLD誘発分子の検出を可能とした。一方で、親水性に富む分子は点眼薬としての開発が期待されるが、PLDポテンシャルを有する分子を眼に高濃度暴露させたときの眼局所におけるPLDリスクは明確でない。そこでPLDを誘発することが知られているクロロキンを、眼に一次刺激を示さない濃度で日本白色種ウサギに1日3回、7日間あるいは14日間反復点眼投与したところ、透過型電子顕微鏡観察により角膜上皮細胞の細胞質内にラメラ構造が認められ、PLDが点眼投与によっても引き起こされることが示された。この結果は点眼薬開発におけるPLDリスク評価の意義を示すものと考えられた。以上の結果から、親水性PLD誘発化合物を検出可能な本in silico予測手法は、点眼薬開発におけるPLDリスク評価においても有用と考えられた。