日本毒性学会学術年会
第41回日本毒性学会学術年会
セッションID: S1-5
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シンポジウム 1 急性中毒の予後に影響するバイオマーカーの臨床および基礎毒性学的な考察
毒性の網羅的把握のための遺伝子発現ネットワーク描出と動的バイオマーカー抽出
*北嶋 聡種村 健太郎菅野 純
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抄録
 本シンポジウムでの臨床の知見との対合の一助になることを期待し、毒性学の近代化を目的に実施中のPercellomeトキシコゲノミクス研究から得た、遺伝子発現ネットワークとしての動的バイオマーカー(Dynamic BioMarker)に関する所見を報告する。
 まず、ペンタクロロフェノール(PCP)について。経口投与後24時間までに肝にインターフェロンシグナルを強力に誘導することが判明し、その上流にPCP代謝系と代謝物によるTLR系やIFNR系の活性化が示唆された。従来、PCPの急性症状である発熱や大量発汗などはその脱共役作用により説明されて来たが、ここで、それらがインフルエンザ様症状として理解されるという新しい知見を得た。
 次に、シックハウス症候群(SHS)レベルの極低濃度吸入反復暴露について。SHSの原因とされる物質3種が共通して、海馬のImmediate Early Genes(IEG)群の発現を抑制した。この抑制は、別途実施した神経抑制物質に関する研究において情動認知行動影響を惹き起こした際の海馬の反応と類似する事から、同様の影響が吸入でも誘発される可能性、この海馬影響がヒトSHSの不定愁訴の原因である可能性が示された。IEGの上流にIL1βを含むサイトカインの動員が同定され、同様の変化が肺にも誘導されていた。
 更に、アセフェート(アセチルコリンエステラーゼ阻害)について。幼若期(2週令)に単回経口投与後の12週令において記憶異常、不安関連行動逸脱、及び情報処理能低下を認め、軸索機能異常、ミエリン形成不全等が示唆された。
 以上、細胞死・組織破壊を惹起しない暴露量でのシグナル毒性のメディエータの同定が分子毒性学的に可能となり、それらが動的バイオマーカーとして利用可能な事が示唆された。臨床におけるバイオマーカー探索への貢献等、日本中毒学会との連携深化の一翼を担えられれば幸甚である。
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© 2014 日本毒性学会
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