日本毒性学会学術年会
第41回日本毒性学会学術年会
セッションID: S11-1
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シンポジウム 11 医薬品・化学物質開発において毒性病理学が果たす役割
毒性病理学的評価の果たす役割とその事例について
*小川 久美子
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抄録
医薬品や各種化学物質のリスクとベネフィットを明確にする上で、毒性試験は重要な役割を果たしているが、その中で、毒性病理学的評価、すなわち組織検索の役割について考えてみたい。
一番の役割は、被験物質の生体影響の局在と変化を明らかにする事にあると考える。どの臓器のどの細胞のどこのオルガネラが、どれ位どのように変化しているのかを客観的に検討し、組織変化の機序や意義を解析することによって、被験物質が生体にもたらす影響と取られるべき対応に関する詳細な情報が得られることになる。変化は、主に、1)変性・代謝性変化、2)炎症性変化、3)腫瘍性変化のいずれかと考えられ、こうした病変の群ごとの頻度、個体あたりの multiplicity や程度が検討される。それらが、被験物質投与に関連した用量相関性のある変化であるか否かを統計的に解析し、薬理作用や血液生化学的データ等を考慮して変化の機序や意義を検討する事が必要である。
通常は、全臓器のヘマトキシリンエオジン染色標本を用いて検討するが、免疫組織化学染色やin situ hybridizationと組み合わせることにより、病変の原因物質やシグナル伝達因子の微細な発現変動など、病変の本態解明に有用なデータを提供することも可能である。また、近年は分子標的治療の進歩が目覚ましく、薬剤の適応決定のためにコンパニオン診断として、免疫組織化学染色を用いた標的分子の存在確認も病理の重要な役割となっている。
このように、病理組織学を基盤とする毒性病理学的検索の役割は、毒性発現の評価、機序の検討、治療方針の決定と多岐にわたるが、病理変化のみではなく、種々の検査所見からの総合的な判断が重要である事はいうまでもなく、また、実験動物における変化がヒトに外挿可能か否かは、常にAOPや証拠の重みを考慮すべきである。本発表では、このような毒性病理学的評価の可能性と課題について事例を挙げて考察したい。
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© 2014 日本毒性学会
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