抄録
我々の身の回りに存在する化合物や食品の発達神経毒性(Developmental neurotoxicity)に対する社会の関心が高まるにつれ,我が国においても妊娠期間中または哺育期間中の母動物(または母動物と児動物の両者あるいは哺育児)に被験物質を投与して発達期にある児動物の神経系に及ぼす影響を調べる様々な研究が実施されるようになり,これらの化合物のリスク評価に際しては,何らかの形で発達神経毒性を考慮した議論がなされるよう求める声が高まりつつある。しかし,現在のところ我が国で実施される発達神経毒性学的研究の様態は様々であり,必ずしも被験物質の有害性や無毒性量を正確に評価できているとは言い難い側面もあるため,個々の研究成果を直ちにこれらの化合物のリスク評価に活用することも困難と思われる。本講演では,様々な化合物の発達神経毒性を評価する代表的な試験法としてUSEPAおよびOECDの発達神経毒性試験(Developmental Neurotoxicity Test,DNT)ガイドライン(OPPTS 870.6300およびTG426)を取り上げ,ガイドラインが制定されるに至った経緯と試験の実際を概説する。
ガイドラインとして提示されたこれらの試験法は,様々な化合物の有害性評価(Hazard identification)に極めて有効であり,別途実施される曝露評価(Exposure analysis)と共にリスク評価の要となり得る。しかし,ガイドラインの推奨に沿った試験には多数の動物が必要であり,評価項目も多岐にわたるため,このような大規模試験を実施できる施設は極めて限られる。本講演では,これらのガイドラインが抱える欠点や今後の課題についても可能な限り提示し,試験法のさらなる改善について議論する。