日本毒性学会学術年会
第41回日本毒性学会学術年会
セッションID: S6-2
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シンポジウム 6 毒性オミクス -遺伝子発現ネットワークを標的とした、治療、毒性、及びそれらの評価の新動向-
遺伝病治療を可能とするトランスクリプトーム創薬
*萩原 正敏
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抄録

 患者の染色体や遺伝子の異常に起因する先天性疾患に対して、体細胞の遺伝子自体を置き換えることは、神ならぬ我々には到底不可能である。しかしながら、染色体や遺伝子に異常があっても、そこから発現するmRNAに影響を与える化合物を見つけ、症状の発現を抑えることは論理的に可能である。
 こうした独自のコンセプトに基づき、pre-mRNAのプロセシングを制御するRNA結合蛋白リン酸化酵素を標的とした化合物スクリーニングを行ってきた。RNA結合蛋白リン酸化酵素は未成熟mRNA上の制御蛋白の集積を制御することで、スプライシング暗号の一部を担っているものと思われる。実際、我々が既に報告しているように、特定のRNA結合蛋白とそのリン酸化酵素の組み合わせが、スプライス部位選択を制御している。それゆえ、TG003のような特異的な蛋白リン酸化酵素阻害剤は特定のmRNAのスプライシングパターンだけを変化させる。最近、我々は、TG003を使ってジストロフィンの変異部位を含むエクソンのスキッピングを促進することで、患者筋芽細胞内でジストロフィン蛋白の発現を亢進させ、デュシェンネ型筋ジストロフィーの薬剤治療が可能であることを示した。
 一方で我々は、エクソンの選択的使用に応じてGFP/RFP等異なる蛍光タンパク質が発現するスプライシングレポーター技術を開発し、スプライシング制御因子の同定を進めてきた(5)。その独自技術を発展させて、家族性自律神経失調症(Familial Dysautonomia)の原因遺伝子であるIKBKAPのスプライシング異常を可視化するスプライシングレポーターを作製し、家族性自律神経失調症の病態解明を行うとともに、異常スプライシングを是正できる低分子化合物の探索した。我々が見出した化合物は家族性自律神経失調症患者細胞に対して治療効果を認め、遺伝病のトランスクリプトーム創薬が可能であることを証明した。

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© 2014 日本毒性学会
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