抄録
従来から,ヒト初代培養肝細胞は,医薬品開発過程でのin vitroでの薬物代謝・毒性評価に使用されているが,ドナーによる肝機能の差や同じロットの細胞に限りのあることなどから,データのばらつきの原因でもあった。最近,ヒトiPS細胞から分化誘導した肝細胞が市販されるようになり,一定の肝機能を持った細胞が継続して供給され,再現性のあるデータを取得できることが期待されている。本ヒトiPS細胞応用安全性評価コンソーシアム 肝臓チームでは,肝毒性,薬物代謝の評価系に使用する細胞として,ヒトiPS細胞由来肝細胞をヒト初代培養肝細胞と比較し,有用性及び問題点を提示することを目的に,ReproCELLおよびCellectisから市販されているヒトiPS細胞由来肝細胞について評価した。
毒性評価では,比較対照細胞としてヒト初代培養肝細胞に加え,肝機能が低いとされているHepG2細胞も用い,ヒトiPS細胞由来肝細胞にCYP阻害剤を加えた系の評価も行なった。既知の肝毒性を示す5化合物について,48時間曝露後のATPおよびLDHを測定し,IC50値や毒性の程度を比較した。
代謝評価では,CYP代謝とCYP誘導についてヒト初代培養肝細胞と比較した。CYP代謝活性は,CYP1A1/2,CYP2C9,CYP2C19,CYP2D6,CYP3A4/5について代謝物をLC-MS/MSにて測定した。CYP誘導については,CYP1A2,CYP2B6,CYP3A4について,当該CYPのmRNA発現の測定を行なった。
本講演では,医薬品の肝毒性,薬物代謝評価におけるヒトiPS細胞由来肝細胞の現時点での有用性,問題点について提示し,今後のヒトiPS細胞由来肝細胞の有効利用,分化誘導法の改良に関する情報を提供する。