抄録
医薬品による副作用の中で中枢神経系(CNS)副作用は重篤性が高く、かつ非臨床試験からその発現を予測することが困難である副作用の一つとして知られている(J. Toxicol. Sci. 2013)。したがって、臨床でのCNS副作用を的確に予測できる非臨床評価法の確立は、製薬企業にとって極めて重要な課題である。現在、一般的に用いられているCNS副作用の非臨床評価法は、in vivo試験としては主に安全性薬理試験(ICH S7A)ガイドライン記載のFOB法やIrwin法であり、in vitro試験としては初代培養神経細胞等の動物由来標本を用いた評価が中心となっている。しかし、いずれも種差の課題がありヒトでのCNS副作用の予測性は高くない。
このような状況下、近年、ヒト iPS細胞から神経細胞の分化誘導が可能となり、ヒト神経細胞を用いた安全性評価系にCNS副作用評価ツールとしての期待が高まっている。
そこで我々製薬協「ヒトiPS細胞応用安全性評価コンソーシアム」神経チームは、ヒトiPS細胞由来神経細胞(ヒトiPSC由来神経細胞)の安全性評価における有用性又は可能性を示すことを目的に活動を開始した。
初年度の目標として市販ヒトiPSC由来神経細胞が成熟神経細胞としての特性を有しているか検証するために、神経細胞特異的細胞死の1つであるグルタミン酸受容体を介した興奮毒性に着目した検討を行った。具体的には、iCell Neuron(CDI:ヒトiPSC由来神経細胞)、ラット初代培養大脳皮質神経細胞及びマウス3T3細胞をグルタミン酸等の既知神経細胞毒性物質で処理した後、細胞内ATP活性(細胞生存)及びLDH漏出量(細胞死)を定量化した上で、各物質の IC50を算出し細胞間で比較することにより、iCell Neuronの神経細胞特性について検討した。
また、上記重篤副作用疾患別対応マニュアルに記載されているCNS副作用について調査を行い、ヒトiPSC由来神経細胞の安全性評価としての応用が期待されるCNS副作用として痙攣・てんかんに着目し、iCell Neuronを用いた電気生理学的検討にも着手した。
本発表では、製薬協「ヒトiPS細胞応用安全性評価コンソーシアム」神経チームの初年度の活動成果を報告する。