抄録
非臨床試験段階において、これまで、ヒトにおける副作用を予測するツールの一つとして、ヒト初代細胞を用いた評価法が利用されてきた。しかしながら、入手できる初代細胞の種類が限定的であることや、その性質がヒトの生体における一部の機能しか反映していないことから、ヒトへの外挿性を評価する上でさらなる向上が望まれていた。ヒトiPS細胞は、自己増殖能及び多分化能を持つことから、これまで入手が困難であった細胞種について大量に利用できる可能性があり、また、新たな評価系を構築するための有用なツールとして期待されている。現在、iPS細胞に由来する複数の細胞種は国内外の業者から既に販売されており、特に、試験の信頼性の担保が重要である毒性試験おいて本細胞を利用することは、各施設に均一な細胞が提供される点から今後有用となることが予想される。一方、複数の企業から販売されている分化細胞は、成熟性や純度などの点で異なる特徴を有し、各評価系に最も適した特性を持つ細胞を選択する必要がある。また、一般的に分化細胞は培養期間や培養環境により、大きく性質が変化することから、試験に利用する時点での細胞の性状の理解もまた重要であると考えられる。さらに、試験データを保証するために、利用する細胞の性状をチェックできるマーカーの探索も今後重要となることが予想される。今回、細胞性状解析チームでは、本コンソーシアムで利用されるiPS細胞由来心筋細胞、肝細胞及び神経細胞について性状を解析することにより、各々の細胞を用いた評価系の妥当性、有用性について調べることを目的としている。評価系に用いる細胞サンプルについて、まず初めにアジレント社のマイクロアレイを用いて遺伝子網羅的解析行い、また、イルミナ社のメチル化アレイを用いることによりDNAのメチル化を調べる計画である。今回の発表では、細胞性状解析チームのアクティビティーについて説明する。