抄録
医薬品あるいは化学物質による眼毒性はQOLを著しく低下させる可能性があり、その開発において眼毒性を正しく評価することは極めて重要である。非臨床安全性試験における眼科学的検査は、被験物質の視覚器に対する安全性を評価するための重要な検査であるにも関わらず、医薬品非臨床試験ガイドラインにはあまり詳しく記されていない。欧米では専門教育を受けて認定された専門家によって眼科学的検査が実施あるいはreviewが行われることが多く、国内でも専門家制度ができその考え方が広まりつつある状況である。
安全性試験における一般的な眼科学的検査では、角膜、水晶体あるいは眼底などの形態を光顕的に検査するが、それに加えて対光反射や網膜電図検査などの機能検査も行うことがある。近年、国内でもこれらの手法が安全性試験に取り入れられ検査技術レベルが向上しているが、一般検査機器については大きく変化しておらず、安全性評価として標準的に行っている手法そのものは変わっていない。安全性試験で使用する動物ではヒトに比べ自然発生性の所見が多く、動物種によって形態学的特徴あるいは系統差があり、加齢による変化も異なる。眼科学的検査を適切に行いヒトへの外挿性を評価するためには、これらの種差や特徴をよく理解しておく必要がある。眼科学的検査の特徴として眼球内の広範囲を評価できることがある。病理組織学的検査が最終判断とされる場合が多いが、眼科学的検査によって病変部位を特定し、その情報を供与することによって病理組織学的検査の精度を向上させることができる場合もある。また、機能的な異常や固定後の臓器では検出が難しい透明性の高い組織の光学的異常などの検出感度は眼科学的検査に頼るところが大きい。
本セッションでは、現在一般的に行われている眼科学的検査法及びいくつかの動物種で得られた所見及び検査データを紹介する。