抄録
非臨床薬物動態試験ガイドライン(1)には,体内動態に関するデータはトキシコキネティクスのデータと併せて評価することにより被験物質の動物における毒性の解釈に役立ち,組織分布試験は被験物質の各種臓器および組織への分布,経時的変化ならびに必要に応じて蓄積性を明確にするために行うと記されている。一方,特に海外において,放射性標識体を用いた組織分布試験は,主にヒトマスバランス試験に向けた組織被曝線量推定のための試験と考える傾向が強い(2)が,被験物質または代謝物の特定組織への蓄積性等を検出するために役立つとする意見もある(3)。先に製薬協 医薬品評価委員会 基礎研究部会は,添付文書,審査資料等の公開資料を基に現在販売されている142薬剤について臨床副作用と非臨床毒性の相関性を調査し,ヒトの副作用を予測するための非臨床試験の重要性とその限界について報告した(4)。この調査対象のうち相関性が良好であった薬剤について,我々は,動物における単回投与および反復投与時の組織分布試験データの調査を行い,標的組織への移行性とその組織における毒性発現の相関性を解析した。また,薬物動態課題対応チーム(31社)を対象に組織分布試験に関する調査を実施し,試験の位置付け,薬効・毒性試験との関係,関連規制および規制当局への対応等の現状を確認した。本報告では,薬剤の組織移行性と毒性発現の相関解析の結果を基にヒトへのトランスレーションの可能性と限界を考えると共に,医薬品開発における組織分布試験のfit-for-purposeなあり方,関連規制に照らした組織分布データの捉え方等について,要望を含めた提言を行いたい。
(1) 医薬審第496号,1998年.
(2) Obach, R. S. et al., Xenobiotica, 42(1): 46-56, 2012.
(3) White, R. E. et al., Xenobiotica, 43(2): 219-225, 2013.
(4) Takami, C., et al., J. Toxicol Sci, 38(4): 581-598, 2013.