抄録
バイオマーカーの検索-ラベルフリーでセルフリーから臨床まで
医薬品の創薬研究から臨床開発・承認・さらには市販後調査に至るまでの過程には非常に多くの時間とコストを要する.非臨床で見出された医薬品候補は種々の要因でドロップアウトする場合があり,成功確率は極めて低い.最大の要因の一つには,ヒトへ外挿できる適切な動物モデルや解析技術が非常に少なく,非臨床で選抜した化合物で,ヒトにおける安全性,有効性が得られない,いわゆる, Proof of conceptが確認できないことが挙げられる.そのため,成功確率を向上させるための取り組みとして,トランスレーショナルリサーチ(TR)がある.TRは創薬研究で選ばれた化合物を医薬品に仕上げるための橋渡しとなる研究であり,非臨床で見つけたバイオマーカーをエンドポイントに設定し臨床試験を行う,あるいは臨床で見られた現象を非臨床で検証し,開発品の価値を向上させることである.
安定同位体を用いたフラックス解析
代謝フラックス研究は,プローブとして放射性標識体や安定同位体などを用いて,細胞内,組織内あるいは血中のターゲット分子の増減や代謝回転を把握するものであり,その分子機能や薬理作用の解析のために非常に有用な手法の一つである.特に13C-,や15N- などの各種安定同位体と質量分析を活用したフラックス解析により,ターゲット分子の増減に直接関係する酵素などの状態を把握するだけでなく,その代謝経路上の産物を含めた各分子の相互作用・調節が,それぞれどのような状態にあるのか,細胞内ネットワーク全体として捉えることができる.
本ワークショップでは,非臨床における活用事例について,紹介する.