日本毒性学会学術年会
第41回日本毒性学会学術年会
セッションID: W4-2
会議情報

ワークショップ 4 医薬品のがん原性評価に対する新たなアプローチ
前がん病変と発がん
*小川 久美子
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
現在 ICH S1 において、医薬品のがん原性評価方法の見直しを視野に、薬理学的機序、遺伝毒性試験および6ヶ月慢性毒性試験等までの成績の重みづけにより、2年間のラットがん原性試験結果が予測可能か否かについて、プロスペクティブな検討が実施されている。慢性毒性試験で認められた病理組織変化が発がん性に関連するか否かの評価は、がん原性予測においてより重要な意味を持つことになると考えられる。本ワークショップでは、そうした観点にから、前がん病変にはどのようなものがあるのか、どのような課題があるかについて改めて考えてみたい。
前がん病変とは、1)多段階発がん過程の中でがんになりうる前段階の病変、および、2)発がん過程において同時におこりやすい変化や発がん母地となりうる状態が含まれる。ヒトの場合、前者は、Vogelstein のヒト家族性大腸発がんモデルで示される腺腫のような良性腫瘍や子宮頚部の高度異形成などがあげられ、後者はC 型肝炎や肝硬変およびピロリ菌感染による慢性胃炎・萎縮性胃炎が明らかな例と言える。
一方、毒性試験においては、化学発がんモデルを用いた経時的観察の積み重ねにより、様々な前がん病変が提唱されてきた。大腸では aberrant crypt fociが腫瘍発生に先行して観察される事が多いが、通常の aberrant crypt foci の発生数と腫瘍発生の強度は必ずしも一致しないとの観察を経て、dysplastic foci や β–カテニンの蓄積を伴うcrypt がより特異性の高い前がん病変と考えられている。肝臓では、腺腫や変異細胞巣が、前がん病変として評価される。一般に、増殖能の亢進は腫瘍発生につながる変化と考えられるため、過形成や継続する炎症などの増殖刺激が示唆される場合は前がん病変・前がん状態として扱われるべきと考えるが、今後、偽陽性・偽陰性は最小限にしつつ、短期間投与でも前がん病変が検出可能となるような、病理診断基準の標準化がますます重要となると考えられる。
著者関連情報
© 2014 日本毒性学会
前の記事 次の記事
feedback
Top