抄録
本ワークショップの趣旨である「食品関連化学物質のリスク評価上の問題点と今後の対応」に沿って、食品安全委員会農薬専門調査会で評価した化合物のうち、トリアゾール化合物の生殖発生毒性について事例を紹介する。
農薬を評価するにあたって必要とされる毒性試験としては、急性毒性(経口、経皮、吸入)、皮膚刺激性、眼刺激性、皮膚感作性、急性神経毒性、急性遅発性神経毒性、反復毒性(90日間経口、21日間経皮、90日間吸入)、反復経口神経毒性、反復経口遅発性神経毒性、1年間反復経口毒性、発がん性、繁殖毒性、催奇形性、変異原性試験などがある。これらの毒性試験成績を評価し、種差や個体差を配慮してヒトに対する健康影響評価を行っている。各種毒性試験から得られた無毒性量(NOAEL)のうち最も低い無毒性量を用いて安全係数で除した値を一日摂取許容量(ADI)と設定する。その際に安全係数として通常は100を用いる。その根拠として、ヒトと実験動物の感受性のちがい(種差)を配慮した10倍、またヒトの個体差を配慮した10倍を設定する。種差あるいは個体差において更なる配慮が必要な場合には追加の係数が加わる。農薬専門調査会ではこれまでに多くの農薬を評価している。そのなかで、トリアゾール化合物において認められた生殖発生毒性の事例を紹介する。
トリアゾール系農薬の共通代謝物である1,2,4-トリアゾール、トリアゾールアラニン、およびトリアゾール酢酸について検討したところ、1,2,4-トリアゾールでは精巣に対する影響や、胎児に口蓋裂・骨格変異の発生増加が認められた。トリアゾールアラニン、トリアゾール酢酸では生殖発生毒性は認められなかった。