抄録
日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)は、2005年5月に薬物性QT延長症候群の発生を回避するためのガイドライン(S7BおよびE14)をステップ4として調印し、非臨床試験・臨床試験の内容・役割を明確に規定した。国内では2009年10月に厚生労働省医薬食品局からより強制力を有するステップ5として通知された。QT/QTc評価試験は臨床開発の早期に実施する臨床薬理試験で、健康な非高齢の男性または女性の志願者を対象とし、QT/QTc延長に関する用量-反応関係や薬物濃度-反応関係を検討する。試験の計画には認容性、薬物動態などのヒトの基礎的データが必要になるので、第I相試験直後から第III相試験中のどこかで実施する。実施時期は非臨床試験や第I相試験でQT延長の懸念がなければ治療用量がほぼ決定するまで待つことも可能であるが、類薬とのリスク/ベネフィットに関する比較の情報が開発継続に影響するのであれば早めに実施すべきである。S7BおよびE14発効後、TdP誘発リスクを有する新規化合物数は激減したが、本当は催不整脈作用がないにも関わらず、S7BまたはE14ではリスク陽性と判定され開発中止になった薬物が少なからず存在する。2014年7月に開催されたワークショップでは、米国食品医薬品局(FDA)が心臓安全性に関する現行ガイドライン(E14)の廃止と新しい評価方法(exposure-response analysis)の導入を提案した。QT延長作用はあっても不整脈を起こさない化合物が存在するという課題を解決するのがFDAの意向である。しかし回避すべき催不整脈リスクは他にも多く存在する。例えば、イオンチャネルの阻害や活性化で発生する不整脈(Brugada症候群、心房細動、QT短縮症候群)、2次的なCa2+ overload に起因する心室頻拍(カテコラミン、ジギタリス、PDE3阻害薬)および完全房室ブロック(Ca拮抗薬、S1P受容体修飾薬)が知られている。これら不整脈の個々の発生リスクを臨床試験で予測することはきわめて困難である。正確に評価するためには効果的な非臨床での予測システム開発および活用が必須である。