抄録
【目的】有機フッ素化合物(PFC)は、環境残留性と生体蓄積性が問題であり、代表的なPFCであるPFOS、PFOAはPOPs条約等により使用が規制されている。しかし、依然として環境中から広く検出され、炭素数の異なる多種類の未規制PFCもまた検出されている。そこで本研究では、環境中から広く検出される種々のPFCをラットに投与し、その生体内におけるPFC特異的動態及び臓器特異的動態について検討した。
【方法】PFCのうち3種のカルボン酸系のPFHxA、PFOA、PFNAとスルホン酸系のPFOSをWistar系雄ラットに急性(強制経口)及び長期(飲水)投与し、各臓器・組織(肝臓、腎臓、脾臓、心臓、脳、血清、全血)を摘出し、LC/MS/MSで分析した。急性投与(0.1 mg/kg~0.05 mg/kg)後5分~28日の経時的臓器濃度から消失半減期(t1/2)を算出した。また、1か月及び3か月の長期曝露(水道水、1 ppb、5 ppb、25 ppb)後各臓器の濃度を測定した。
【結果と考察】急性投与試験から、各臓器における消失半減期は、PFHxAでは大きな差は見られなかったが、PFOA及びPFNAでは炭素鎖に応じて長くなり、肝臓で最も長い傾向が認められた。PFOSの消失半減期も同様な傾向を示し肝臓で最も長かったが、その消失半減期は同じ炭素数のPFOAより長く、炭素数の1つ多いPFNAより短かった。長期曝露試験では、PFOSは肝臓において特徴的な蓄積傾向を示し、消失半減期から推測される蓄積量は、PFOA・PFNAでは推測値とほぼ同等であったにもかかわらず、PFOSでは推測値の7~9倍も高く、PFOAの約6~8倍、PFNAの約6~7倍に相当した。以上より、PFOSの特異的肝臓蓄積は消失半減期に依存するのみならず、肝臓への特異的取り込み機構の存在が示唆された。