日本毒性学会学術年会
第42回日本毒性学会学術年会
セッションID: P-10
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優秀研究発表 ポスター
ナノ粒子の胎児期曝露は若齢マウスの脳に老齢個体と類似の慢性所見を誘導する
*小野田 淳人菅又 昌雄井原 智美武田 健梅澤 雅和
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抄録

背景: ナノ粒子の安全性研究において、感受性の高い胎仔期の曝露に焦点を当てた検証が求められている。妊娠期に曝露されたナノ粒子が出生仔の中枢神経系、特に血管周辺の脳実質組織に移行することが明らかにされている。本研究では、ナノ粒子の胎仔期曝露が出生仔中枢神経系に及ぼす影響を明らかにすることを目指し、血管周囲隙に存在する血管周囲マクロファージ (PVM) とその周辺のアストロサイトの組織学的変化に着目した検討を実施した。
方法: 凝集粒子を除去した一次粒子径14 nmの炭素ナノ粒子を妊娠5、9日目の妊娠マウスに点鼻投与 (CB-NP: 95, 58, 12, 2.3 µg/kg wt) した後、6週齢の雄性産仔から脳を摘出し、解析を行った。
結果・考察: CB-NP群においてPVM消化顆粒の肥大化や蜂の巣状構造化、アストロサイト末端の膨潤化、グリア線維性酸性タンパク質 (GFAP) の発現亢進が認められた。特に、GFAPの発現亢進は変性した消化顆粒を保有するPVM周辺において顕著であった。また、PAS陽性PVMが大脳皮質、視床下部で顕著に減少しており、大脳皮質前頭野のGFAPや水チャネルとして働くAqp4が用量依存的に亢進した。これらの結果は老齢マウスに認められる所見と類似していた。齧歯類並びにヒトの脳内では老化と共に老廃物が増加し、Aqp4を介した脳脊髄液の流れによって血管周囲隙に排出される。PVMは、血管周囲隙に集積した老廃物を貪食することで脳実質の排泄環境を整えている。したがって、PVM消化顆粒の変性や消失、Aqp4の発現亢進は血管周囲の老廃物蓄積を示している。なお、同様の所見が二酸化チタンナノ粒子の胎仔期経気道投与によっても認められた。本研究により、ナノ粒子の胎仔期曝露は老化や老廃物蓄積に伴う神経変性疾患のリスク要因となること、特に大脳皮質前頭野は重要な標的領域であることが示唆された。ナノ粒子胎仔期曝露によって生成、蓄積する老廃物を同定することで、出生仔の脳で認められる変化のメカニズムや疾患との関連性が明らかになると期待される。

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© 2015 日本毒性学会
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