日本毒性学会学術年会
第42回日本毒性学会学術年会
セッションID: P-9
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優秀研究発表 ポスター
単層カーボンナノチューブにおける残留金属触媒の細胞影響について
*福田 真紀子加藤 晴久遠藤 茂寿丸 順子中村 文子篠原 直秀内野 加奈子藤田 克英
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抄録

単層カーボンナノチューブ(SWCNT)は、軽量・高強度、高電気伝導性、高熱伝導性等の特性をもっている。今後、これらの特性を生かして様々な応用製品として利用されることが期待される。しかし、生体への影響及び細胞応答メカニズムについては不明な点が多い。最近では、SWCNTの合成に使用されている金属触媒が生体に影響するという報告がなされている。本研究では、SWCNTの残留金属触媒の影響を評価するために、ヒト肺胞上皮細胞株A549およびラットマクロファージ細胞株NR8383を用いて培養細胞試験を行った。SWCNTの被験材料として、市販品であるFHA及びFHPの2つのタイプを用いた。FHAは、触媒として鉄を用いて合成し、FHPはFHAを精製したSWCNTである。透過型電子顕微鏡 (TEM) 観察により、FHA及びFHP曝露した細胞においてSWCNTの取り込みが観察された。エネルギー分散型分光器 (EDS) により、FHAを曝露した細胞内への鉄の取り込みが多く観察された。しかしながら、A549細胞における生存率試験では、FHA及びFHPの細胞増殖阻害作用は観察されなかった。一方、NR8383細胞において、 FHAの24時間暴露後に細胞増殖阻害がわずかに観察された。また、DNAマイクロアレイを用いた網羅的な遺伝子発現プロファイリングでは、酸化ストレス、炎症性応答、アポトーシスおよび細胞外マトリックス (ECM) に関与する代表的な遺伝子の顕著な発現は観察されず、FHA及びFHPは、強い細胞毒性を有していないことが遺伝子発現のレベルから分かった。しかしながら、A549細胞において48時間暴露後に、NR8383細胞においては24時間暴露後に、金属触媒量の少ないFHPの方が大幅な細胞内活性酸素種 (ROS) 産生の増加が観察された。以上の結果より、A549細胞およびNR8383細胞中の各SWCNTに含まれる残留金属触媒は、細胞内ROS産生や酸化ストレス応答の決定的なパラメータではないことが示唆された。本成果は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) の委託業務の結果得られたものである。

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© 2015 日本毒性学会
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