抄録
【目的】オゾン層破壊物質代替物質1-ブロモプロパン(1BP)はヒトとラットで神経毒性と生殖毒性を引き起こすことがわかっている。雄ラットは1000 ppmの1BPに1日8時間、5から7週間の曝露でも生存するのに対し、最近の 我々の研究で雄C57BL6/JJclマウスは300 ppmの1BPに7日間曝露後、肝臓の壊死を引き起こし、結果として生存できず、神経毒性影響が検出できなかった。本研究はサイトクロームP450の阻害剤、1ーアミノベンゾトライアゾール(ABT)を用い、1BPが引き起こす肝障害作用を抑制することによって、マウスを用いた1BP神経毒性モデルの確立を試みるとともに、P450による1BPの酸化が生殖毒性のパラメータにあたる影響を明らかにする。
【方法】42匹のC57BL/6JJclマウスを6匹ずつ7群に分け、4群にABT 50mg/kgを皮下注射で1日2回投与し、0、50、250、1200 ppmで1BP8時間の曝露を28日間行った。残る3群には生理食塩水を注射し、0、50、250 ppmの1BPに1日8時間、28日間曝露した。曝露終、麻酔下で臓器を剖出した。
【結果】ABT-・1BP 250 ppm群で、肝臓で壊死、炎症、肝臓細胞の変性像が見られた。一方、ABT+マウスでは、1200 ppmを含むすべての群で病理的な変化が見られなかった。脳重量は、ABT+・1200ppm群でABT+・0ppm群に比して有意に減少した。ABT-・1BP250 ppmのグループで、精子数がABT-・1BP 0ppm群に比して減少したが、ABT+・1BP250ppm群およびABT+・1BP50ppm群においてABT+・1BP0ppm群に比して精子数の変化は無かった。精嚢と前立腺はABTの投与の有無に関わらず、250 ppmの濃度で、それぞれの0ppm群に対して重量が減少した。
【考察】ABT投与は1-BPによる肝毒性を抑制した。本研究はP450が1-BPの代謝と毒性発現において重要な役割を担っていることを明らかにした。この方法によりマウスの1-BP神経毒性モデルの作成が期待される。