抄録
【目的】ヒト、動物ともに機能分化の臨界期は化学物質に対する感受性が高く、内分泌撹乱物質による影響が懸念される。脳の性分化臨界期にあたる新生児期雌ラットに合成エストロジェンであるエチニルエストラジオール(EE)を投与し長期間観察すると、性周期回帰停止および卵巣における嚢胞状卵胞の増加といった影響が、低用量であるほど遅れて出現することを我々は報告した。今回は、化学物質のリスク評価に資することを目的として、遅発影響の閾値を探索し、さらにこの値を子宮肥大試験における無影響量と比較検討した。
【方法】先行研究において性成熟後に性周期の回帰停止が認められた最小用量である0.4 µg/kg/dayを最高用量とし、以下公比5で除して0.08、0.016および0.0032 µg/kg/dayを1日齢のSD系雌ラットに5日間反復経口投与した。8週齢から25週齢まで2週間間隔で連続14日間、膣スメアの採取により性周期を観察し、27-28週齢に剖検を行い、卵巣を採取した。採取した卵巣はブアン固定し、常法に従ってパラフィン連続切片の作製を行い、ヘマトキシリン・エオジン染色後に嚢胞状卵胞および黄体の有無を調べた。また、子宮肥大試験は22日齢のSD系雌ラットにEEを2.0、0.08および0.0032 µg/kg/dayの用量で3日間経口投与し、最終投与24時間後に剖検を行い、子宮重量を測定した。
【結果および考察】0.08 µg/kg/day投与群では性周期の回帰停止が認められなかったが、不規則に発情を回帰し、卵巣において嚢胞状卵胞の保有率が対照群と比較し有意に増加した。0.016 µg/kg/day以下の投与群では、性周期および卵巣の形態が対照群と類似していた。一方、子宮肥大試験における0.08 µg/kg/day以下の投与群では、対照群と比べ子宮重量に有意な差は認められなかった。新生児期投与後の長期観察において、子宮肥大試験の検出感度より低い用量で嚢胞状卵胞の保有率が増加したことから、遅発影響にかかわるEEの閾値は0.08 µg/kg/dayより低くなることが明らかになった。