抄録
フルシトシンは真菌の核酸合成阻害作用を有するフロロピリミジン系の経口抗真菌薬であり、ラットの器官形成期投与により40 mg/kg以上の用量で吸収胚の増加、外表及び骨格異常の発現等の発生毒性が報告されている。また、筆者らは昨年の第41回日本毒性学会学術年会において、25 mg/kg以上の単回投与で骨格異常及び変異の発現が増加することを報告した。本研究では、妊娠ラットを用いて胎児に骨格異常を誘発するフルシトシンの用量の単回投与により、内臓異常の発現の有無を検討した。SDラットの妊娠11日 (精子確認日=妊娠0日) にフルシトシンの25及び35 mg/kgを経口投与し、妊娠20日に帝王切開を行った。生存胎児の約半数を内臓検査し、残りの半数については骨軟骨二重染色を施して骨格検査を実施した。母体への影響として、35 mg/kgで投与日翌日の体重増加量が抑制され、摂餌量に低値傾向がみられた。帝王切開時の検査項目には、フルシトシン投与の影響は認められなかった。胎児の奇形学的検査では、25及び35 mg/kgで外表異常 (後肢の軸前性の多指)、骨格異常 (腰椎体の癒合、仙椎体の欠損、過剰仙椎、肋骨の欠損、中足骨及び指節骨の重複) 及び骨格変異 (胸椎体、腰椎体または仙椎体の分離または未骨化、肋骨の断裂、胸骨分節の小型または未骨化) が認められ、骨格異常及び変異を有する胎児の頻度が増加した。今回観察された骨格異常及び変異は昨年報告した異常・変異の型及びそれらの発現頻度と比較してほぼ同等であった。一方、骨化進行度の遅延はみられなかった。内臓検査では、いずれの用量にも投与の影響はみられなかった。以上の結果から、フルシトシンのラット胎児に骨格異常を誘発する用量では明らかな内臓異常は発現しないと考えられた。