抄録
トキシコゲノミクス・インフォマティクスプロジェクト(TGP2)では、薬剤の安全性予測を目的として、毒性オミクス解析を行ってきた。その中で、血液中のマイクロRNA (miRNA)により様々な組織の毒性バイオマーカーとして利用できる可能性を検討するために、薬剤非投与時の55臓器・組織におけるmiRNAの発現データを取得した。これらのデータから抽出した腎特異的miRNAについて、シスプラチン投与腎障害ラットモデルにおいて検討したところ、血漿中・尿中において発現量の増加を認め、毒性バイオマーカーとして利用できること、ひいては多臓器から取得したオミクスデータの有用性が示唆された。本研究では、55臓器・組織におけるmRNAの発現を測定し、臓器特異的遺伝子や発現分布を評価することを目的にした。
10週齢の雄性SDラット〔Crl:CD (SD)〕 (N=3)について、消化管や脳など解剖学的に分割可能な部位を含め、55種類の臓器・組織について、Rat Genome 230_2.0 Gene Chip (Affymetrix社)を用いて肝臓の遺伝子発現データを取得した。遺伝子発現データはMAS5, global normalizationによる数値化・正規化の後、total RNAの RIN値によるやスキャッタープロットなどによる品質管理やROKU法・階層的クラスタリングなどによる各種解析を行った。
ROKU法により臓器特異的・選択的遺伝子を抽出したところ、肝臓においてCyp2a2, Cyp3a2, Apoa2など特異的遺伝子が多数抽出されるなど、各種臓器・組織の特異的・選択的遺伝子を抽出することができた。また、肝臓のマーカーとして広く用いられているアルブミン遺伝子は脂肪組織においても発現を示すなど、非常に多くの知見が得られた。
これらのデータは臓器特異的遺伝子・発現分布のみならず、同一のtotal RNAから取得されたmiRNAとの解析や共発現遺伝子の解析、他組織のコンタミなどの実験の品質管理など、様々な応用が可能であり、非常に有用であると考えられる。