抄録
【背景及び目的】ヒトiPS細胞応用安全性評価コンソーシアムでは、ヒトiPS細胞由来肝細胞 (iPSC-Hep)の細胞性状を調べるために、マイクロアレイでヒト肝臓組織、ヒト初代培養肝細胞 (hPH)、HepG2との比較を行い、iPSC-Hepはロット間差及び施設間差は小さいものの、hPHに比べてCYP、GST、UGT等の発現レベルが低く、毒性応答や代謝誘導能も低いことを昨年の本学会で報告した。そこで、本研究では未分化iPSCsと種々の肝細胞を比較し、分化度に応じて発現量が変化する遺伝子群を調べることで、iPSC-Hepが安全性評価へ適用可能と判定するためのマーカー遺伝子の探索を試みた。【方法】ReproCELL社、Cellartis社、CDI社製のiPSC-Hep、hPH及びHepG2を所定の方法で培養後、SurePrint G3 Human GE マイクロアレイ 8×60K V2 (Agilent)を用い、網羅的な遺伝子発現量解析を行った。さらに、未分化iPSCs及びヒト肝臓組織から取得したアレイデータを加えて比較解析を行った。【結果及び考察】主成分分析の結果から未分化iPSCs<HepG2<hPH<ヒト肝臓組織の順に発現レベルが高くなる遺伝子を探索したところ、FXR、LXR、及びPXR/RXRが抽出され、更にそれらがターゲットとする胆汁酸産生や分泌、コレステロール輸送や脂質代謝、薬物代謝等に関連した遺伝子群も抽出された。iPSC-Hepではこれらの発現レベルにベンダー間で差がみられ、特に主成分分析でhPHから離れた位置に分類されたものでは発現レベルが低い傾向にあった。この結果から、核内受容体の発現量の違いが各肝細胞の活性に関与しており、これらの遺伝子群をマーカーとすることで、iPSC-Hepの肝細胞としての状態を判定できる可能性が示唆された。