抄録
回避学習試験の回避率を指標にSprague-Dawley系から分離されたHatanoラットでは、高回避系は低回避系に比べてストレスに対する感受性が高いと考えられており、雌の寿命を比較した実験では、高回避系に下垂体腫瘍が、低回避系に乳腺腫瘍が高頻度に認められている。今回、両系の非腫瘍性病変についても検索したので報告する。両系とも35匹の雌を24か月齢まで継続飼育し、途中死亡例を含むすべての例について病理組織学的検査を実施した。その結果、腎臓では慢性進行性腎症が低回避系の全例にみられたのに対し、高回避系では35例中1例のみに認められ、逆に腎盂拡張は高回避系の全例にみられたが、低回避系では1例も認められなかった。低回避系では、顕著な胸腺退縮が全例で確認されたのに対し、高回避系では退縮の程度は中等度で、管状形成または索状配列を伴った上皮過形成がほぼ全例に認められた。甲状腺では、傍濾胞細胞の過形成が高回避系のほぼ全例に観察されたが、低回避系ではほとんどみられなかった。低回避系では顕著な卵巣の萎縮が全例にみられたが、高回避系では萎縮の程度は軽度~中等度で、性索間質の過形成がほぼ全例で観察された。低回避系では子宮の萎縮がほぼ全例で観察されたのに対し、高回避系で萎縮がみられたのは数例のみで、子宮内膜ポリープが数例に観察された。肝臓では変異肝細胞巣が高回避系で高頻度に観察された。循環器系では、腸間膜動脈の結節性動脈炎が低回避系の約30%以上で観察されたが、高回避系ではみられなかった。以上のように、Sprague-Dawley系から分離された2種の近交系雌ラットでは、Sprague-Dawley系に自然発生する非腫瘍性病変がそれぞれの系統に特異的に観察された。したがって、これらの非腫瘍性病変の発現には両系にみられるストレス感受性や性ホルモン分泌の違いが強く関与しているものと推察された。