抄録
【目的】膜結合型プロスタグランジンE合成酵素(mPGES-1)は炎症やがんなどの病態下で発現誘導され、COX-2と選択的に機能連関してPGE2を産生する。これまでにCOX-2、mPGES-1によって産生されたPGE2が大腸における化学発がんを促進することを見出してきた。mPGES-1はPGE2産生を介して様々な組織において炎症反応を促進するが、皮膚炎においてはPGE2が抑制的に働くことも報告されている。そこで、皮膚では発がんに対し、mPGES-1が他の組織とは異なった役割を持つ可能性も考えられる。本研究では化学物質による2段階発がんモデルを用いて、皮膚化学発がんにおけるmPGES-1の役割について明らかとすることを目的とした。
【方法】野生型マウスおよびmPGES-1遺伝子欠損(KO)マウスの背部に2 mM 7, 12-dimethylbenz[a]anthracene (DMBA)を塗布し、1週間後より週に2回、16 µM O-tetradecanoylphorbol acetate (TPA)を塗布した。DMBA塗布から20週後に背部皮膚における腫瘍形成を評価した。
【結果・考察】野生型マウスではDMBA/TPAによってすべてのマウスに皮膚腫瘍が形成されたことに対し、mPGES-1 KOマウスでは12.5%にしか腫瘍の形成が認められなかった。また、WTマウスの腫瘍組織では周辺の通常皮膚組織と比較してmPGES-1のmRNA発現が増加し、PGE2量の増加も認められた。一方mPGES-1 KOマウスでは腫瘍組織におけるPGE2量の増加は認められず、PGD2量が野生型マウスと比較して増加していた。これらの結果より、mPGES-1は皮膚においてもPGE2産生を促進し、発がんを促進することが示唆された。