抄録
【背景・目的】薬剤性肝障害のうち胆汁うっ滞を伴うものは全体の約4割を占める。胆汁うっ滞の診断には血清アルカリフォスファターゼ(ALP)値の上昇が一つの目安となるが、毛細胆管側膜に局在するALPが胆汁うっ滞時にどのようなメカニズムで血中に漏出するかは依然として不明である。通常時、ALPは翻訳後にゴルジ体からいったん血管側膜へ移行し、トランスサイトーシスによって最終的に胆管側膜に到達することが示されている。本研究では特にALPのトランスサイトーシスに着目し、胆汁うっ滞時にALPが血中で上昇するメカニズムを調べることを目的とした。
【方法】サンドイッチ培養ラット肝細胞(SCRH)培養4日目に薬物を曝露し、24時間後に培地中と細胞内のALP活性、ALPのmRNAを測定した。4℃条件下で細胞に抗ALP抗体を曝露し、血管側膜上のALPをラベルした。その後37℃で一定時間インキュベーションし、経時的に固定してから蛍光二次抗体で染色することで、トランスサイトーシスによるALPの細胞内動態を観察した。
【結果・考察】胆汁うっ滞型肝障害が報告されているいくつかの薬物で、SCRHへの曝露で培地中にALP活性が上昇する傾向を認めた。この時、ALPのmRNA発現量に変化は見られなかった。ALP活性上昇の割合が比較的大きかったフルタミドについて、ALPのトランスサイトーシスへの影響を調べた。その結果、フルタミド曝露によりALPの毛細胆管膜への集積が減少し、逆に細胞内、血管側膜にALPがより多く観察された。以上より、フルタミドはALPのトランスサイトーシス経路を阻害し、その結果ALPが血中に漏出されやすくなる可能性が示された。