抄録
【目的】光線力学的療法とは、腫瘍細胞に選択的に蓄積する光感受性物質を患者に投与後、患部にレーザーを照射して、腫瘍細胞死を引き起こす治療法である。本研究では、光感受性物質レザフィリン(NPe6)を用いた光線力学療法において、脳腫瘍細胞の細胞死を引き起こすための適切なレーザー照射条件を明らかにすることを目的とした。
【方法】神経膠腫細胞としてU251細胞を用い、神経膠芽腫細胞としてT98G細胞およびA172細胞を用いた。各脳腫瘍細胞をNPe6で前処理後、波長664 nm、照射密度0~44 mWおよび照射量0~30 J/cm2の範囲の出力でレーザーを細胞に照射した。レーザー照射24時間後にWST-8アッセイにより細胞生存率を確認した。また、細胞のアポトーシスは、caspase-3の活性化およびphosphatidylserineの細胞表面への露出の検出により、ネクローシスは、液胞の増加、propidium iodideの染色性の増加および乳酸脱水素酵素の培養上清への漏出の検出によって確認した。
【結果および考察】レーザー照射24時間後の各脳腫瘍細胞の生存率を確認したところ、NPe6処理濃度依存的な細胞死が確認された。次に、NPe6処理濃度並びに照射密度を一定に保ち、照射量を変化(0~30 J/cm2)させたところ、照射量依存的な生存率の低下が認められた。このときの細胞死の形態を確認したところ、照射量が少ない場合にはアポトーシスが誘導され、照射量が多い場合はネクローシスによる細胞死が多く誘導されていた。一方、NPe6処理濃度並びに照射量を一定に保った場合には、照射密度を変化(0~44 mW)させても生存率や細胞死の形態に違いは認められなかった。以上の結果より、脳腫瘍細胞に対する光線力学療法においては、レーザー照射時の照射量が細胞死の誘導やその形態に影響を及ぼす重要なファクターであることが確認された。